YUKI皮フ科形成外科

切開排膿について〜不要不急でない状態〜

切開排膿』という言葉を聞いたことがあるでしょうか?
形成外科ではとても頻繁に行われる処置でその名の通り、皮膚を『切開』して、溜まった膿を出す『排膿』します。
皮膚の下の袋状の構造物に垢が溜まってできた粉瘤という腫瘍が存在する場合、細菌が入り感染を起こし、内部で膿を作り、炎症を起こして赤く腫れ上がることがあります。また粉瘤などの腫瘍が存在しない場合でも、皮膚の傷口から細菌感染を起こし、皮膚や皮下・軟部組織に炎症を起こし蜂窩織炎という状態になり、皮下に膿が溜まる場合があります。

背中やお尻にあったしこりが、数日前から赤く腫れて痛くて眠れない。
塗り薬塗って、飲み薬もらったけど全然良くならない。

このようなパターンで当院を受診される方がとても大勢いらっしゃいますが、局所麻酔をして『切開排膿』を行うと、直後より痛みが軽減する場合がほとんどです。

背中やお尻であれば、このような比較的ゆっくりとした経過でも、あまりひどい状態にはならないのですが、部位によってはなるべく緊急で処置した方がよい場合もあるため、今回症例を参考に説明させていただくことにしました。

左環指(薬指)のもともとあったしこり(粉瘤)が、一週間前から赤く腫れてきて痛みが強くなり、抗生物質の内服薬と外用薬での治療で経過観察となりました。その後も症状は全く改善せず、さらに腫れと痛みが強くなったため当院を受診されました。

当院での診察時、左手の薬指の付け根(左環指基節部背側〜尺側)が、赤く腫れ(発赤腫脹あり)、痛みや熱感もある状態でした。エコー検査では、皮下に液体の貯留を認めました。

もともと存在した粉瘤に細菌が感染した感染性粉瘤を疑い、すぐに、指神経ブロックを行い(指の付け根に麻酔をして、指全体を痛みを感じさせなくする麻酔)『切開排膿』を行いました。内部には膿が溜まっており、膿を出して内部を生理食塩水で洗浄し、殺菌作用のある軟膏を塗り、さらに抗生物質を点滴で数日間投与して、ようやく感染は落ち着きました。

指の場合は、背中やお尻などと異なり、指を曲げ伸ばしするための腱や、関節、骨などが皮膚のすぐ近くに存在します。そのため、背中やお尻のようにのんびりと治療していると、腱や関節、骨などにまで、細菌感染が及んでしまい、腱や関節に感染が及ぶと、腱や関節包が溶けてしまい 指が曲げ伸ばしできなくなったり、骨では骨髄炎という治療にとても難渋する事態になってしまうことがあります。

私が以前勤務していた地域の中核病院では、手外科治療も担当していました。初期治療が遅れたため、指の腱や関節、骨まで感染が及んでしまい大変な思いをされている患者さんをたくさん診てきました。

また抗生物質の内服薬は、手足のひどい感染の場合には、内服しても感染している部位まで、薬の成分が十分に届かないためあまり効果がありません。 そのため、膿が溜まっている場合は『切開排膿』を行い、抗生物質を点滴する必要があります。他に感染が悪化しやすい方の特徴として、何か基礎疾患がある(例えばコントロールの悪い糖尿病透析中の方など)ということが挙げられます。切開をせずに注射針などで内部の膿を抜いて対処しようとしたり、不十分な切開から処置をしようとすると、概して感染を拗らせるだけで良い結果は得られないことが多いです。

不要不急でない状態の場合は、スムーズな治療が必要になります。

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